SSC(サスティナブル・ソーシャル・カンパニー)とは?未来を創る企業の新しいかたち

はじめに:これからの時代に求められる企業のあり方
私たちマイスター高等学院は、単なる高校教育の場ではありません。日本の未来を守り、地域産業を支える「マイスター」を育成する教育機関として、2024年に設立されました。
当学院の大きな特徴は、生徒たちが卒業後に進む就職先にあります。それが「SSC(サスティナブル・ソーシャル・カンパニー)」、つまり未来創造企業と呼ばれる企業群です。
このSSCという言葉を初めて聞く方も多いでしょう。直訳すれば「持続可能な社会を目指す企業」という意味ですが、その実態はもっと深く、そして私たちの教育理念と密接に結びついています。
今、日本は深刻な労働者不足に直面しています。特に地域産業においてその課題は顕著です。マイスター高等学院は、この社会課題に真正面から取り組むために生まれました。そして、生徒たちが働く場所もまた、社会課題の解決を第一の目的とする企業でなければならない。そう考えたとき、私たちが辿り着いたのがSSC(未来創造企業)という概念だったのです。
本記事では、SSCとは何か、なぜマイスター高等学院がこの理念を重視するのか、そして生徒たちにとってどのような意味があるのかを、詳しくご説明していきます。
SSC(未来創造企業)の定義:社会を変える企業の条件
持続可能な社会構築という明確な目的
SSC、すなわち未来創造企業とは、「事業を通じた継続的な社会課題の解決を事業目的の第一に掲げる企業」のことを指します。
ここで重要なのは「事業目的の第一に」という部分です。多くの企業が社会貢献活動を行っていますが、それは本業とは別の慈善活動であることが少なくありません。しかし、SSCは違います。本業そのものが社会課題の解決なのです。
例えば、建設業を営む企業であれば、ただ建物を建てるだけでなく、地域の住環境を改善し、災害に強い街づくりに貢献する。そのこと自体が事業の中心にある。これがSSCの考え方です。
マイスター高等学院が育成する「マイスター」たちは、まさにこうした企業で、社会課題の解決に直接貢献する仕事に従事します。現在、当学院では大工コースに生徒が在籍しており、彼らは建設業という地域社会の基盤を支える分野で、専門技術を磨いています。
経済的持続性と社会貢献の両立という難題
「社会課題の解決を第一に」と聞くと、経済的な成長を犠牲にしているのではないかと思われるかもしれません。しかし、SSCの本質は、この両立にあります。
未来創造企業は、社会貢献に偏るのではなく、経済的な持続性も同時に重視します。なぜなら、企業が存続しなければ、継続的な社会課題の解決は不可能だからです。
具体的には、事業を通じて生まれた経済的価値を、従業員への適切な分配や、事業への再投資に充てることで、企業の持続的な発展を実現します。
マイスター高等学院の生徒たちは、在学中から提携企業と3年間の有期雇用契約を結び、収入を得ながら学んでいます。そして卒業後は、その企業に正社員として転換し、安定したキャリアを築きます。これは、SSC企業が経済的にも健全であり、従業員を大切にしている証拠です。
「働きながら学ぶ」というこのシステムは、生徒たちに経済的な自立をもたらすだけでなく、企業の一員として社会に貢献する実感を、高校生のうちから得られるという大きなメリットがあります。
公益・共益・私益という三つの価値
SSC(未来創造企業)が追求する価値は、三つの層で構成されています。
第一に「社会的価値」、つまり公益です。これは広く社会全体に対して効果や影響が及ぶ価値のことです。地域産業の担い手となるマイスターが、建設や農業などの分野で活躍することは、まさにこの公益に直結します。
第二に「関係主体幸福度」、つまり共益です。これは企業と関わるすべての人々、つまり従業員、顧客、取引先などが感じる幸福度のことです。重要なのは、これが双方向的であるということ。企業が一方的に提供するのではなく、個人や組織も企業に価値を提供し合う関係性です。
マイスター高等学院が重視する「志と人間力」の育成は、この共益の実現に欠かせません。技術だけでなく、人としての成長があってこそ、周囲と良好な関係を築き、互いに幸福度を高め合うことができるのです。
第三に「社会・経済的価値」、つまり私益です。これは企業の継続と成長に必要な経済的達成度のことです。企業が健全に成長することで、より多くの雇用を生み、より大きな社会貢献が可能になります。
この三つの価値は、どれか一つが欠けても成立しません。SSCは、これらをバランス良く追求する企業なのです。
第三者評価が保証する信頼性:SSC認定制度の仕組み
なぜ第三者評価が必要なのか
「うちは社会課題を解決している」と自称する企業は多くあります。しかし、それが本当なのかを、どうやって確かめればよいのでしょうか。
ここで重要になるのが、第三者による客観的な評価です。SSC(未来創造企業)の認定は、一般社団法人未来創造企業研究所(JFR)が行う厳格な審査に基づいています。
この第三者評価には、大きな意味があります。まず、客観的な評価により、地域や社会からの信頼を高めることができます。関係するすべての人々が、その企業の価値を改めて確認し、認識できるのです。
マイスター高等学院が生徒の就職先としてSSC企業を選ぶ理由は、まさにこの信頼性にあります。保護者の皆様にとっても、お子様が働く企業が第三者機関によって評価されているという事実は、大きな安心材料となるはずです。
21世紀型企業としての包括的な評価基準
SSC認定の評価基準は、極めて包括的です。企業が社会課題を生み出さない経営を行っているかを確認するため、以下の七つの分野について審査が行われます。
「地球」「社会」「地域」「顧客」「取引先」「従業員(家族)」「経営者」
これは、企業活動のあらゆる側面をカバーする視点です。環境への配慮はもちろん、地域社会への貢献、顧客満足、取引先との公正な関係、従業員とその家族の幸福、そして経営者の理念まで、すべてが評価対象となります。
例えば「従業員(家族)」という項目では、福利厚生、就業条件、労働環境について、一定の基準をクリアしていることが必須です。これにより、マイスター高等学院は、生徒たちに「社会貢献が実現でき、安心して働ける会社」を紹介できるのです。
実際に現場で働く生徒たちの声を聞くと、「自分の仕事が社会の役に立っていると実感できる」「職場の人たちが温かく迎えてくれた」といった前向きな言葉が返ってきます。これは、SSC企業が人を大切にする文化を持っている証です。
継続的な質の向上を支える仕組み
SSC認定は、一度取得すれば終わりというものではありません。企業の質を継続的に向上させるため、認定企業研修が定期的に実施されています。
2026年3月から5月にかけても、認定企業研修(13期生)が複数回予定されています。このような継続的な取り組みにより、企業力が常に向上するよう努められているのです。
マイスター高等学院の生徒にとって、これは非常に重要な意味を持ちます。卒業後も、自分が働く企業が成長し続け、より良い職場環境が維持される。そのことが保証されているのです。
私たちは、生徒たちを一時的に就職させることが目標ではありません。長期的に安定し、成長できるキャリアを提供することこそが、真の教育の責任だと考えています。SSC認定制度は、その実現を支える重要な柱なのです。
マイスター教育とSSCの結びつき:現場で学ぶ意味
三年間の実務経験がもたらすもの
マイスター高等学院の最大の特徴は、「働きながら学ぶ」教育システムです。生徒たちは入学と同時に、学院を運営する企業と3年間の有期雇用契約を結びます。
この3年間は、単なるアルバイト経験ではありません。SSC企業の一員として、社会課題の解決に直接関わる、本格的な職業経験です。
例えば、大工コースの生徒たちは、実際の建設現場で先輩職人の指導を受けながら、技術を磨いていきます。木材の選び方、道具の使い方、安全管理の方法など、教室では学べない実践的な知識を、日々吸収しています。
しかし、学ぶのは技術だけではありません。現場での挨拶の仕方、報告・連絡・相談の大切さ、チームで働くことの意味など、社会人として必要な基本的な姿勢も、実務を通じて身につけていきます。
ある生徒は「最初は緊張したけれど、先輩たちが丁寧に教えてくれた。自分の手で作ったものがお客様に喜ばれるのを見たとき、この仕事の誇りを感じた」と話してくれました。こうした経験こそが、SSC理念を体現する人材を育てるのです。
論語から学ぶ人間力の重要性
技術だけでは、本当の意味でのマイスターにはなれません。マイスター高等学院では、「志と人間力」の育成を非常に重視しています。
その教育の一環として、授業では『論語物語』を活用することが推奨されています。論語は、2500年前から読み継がれてきた、人としてのあり方を説く古典です。
「信なくば立たず」「徳は孤ならず、必ず隣あり」といった論語の教えは、現代のSSC企業における「共益」の概念と深く通じています。信頼関係を大切にし、周囲と良好な関係を築くことの重要性は、時代を超えた普遍的な真理なのです。
生徒たちは、こうした人間としての基礎を学びながら、SSC企業で働く意味を深く理解していきます。自分の仕事が単なる収入のためではなく、社会全体の幸福につながっているという実感。それが、仕事への誇りとなり、長期的なキャリアの基盤となるのです。
正社員転換による一貫したキャリア形成
マイスター高等学院の教育は、卒業で終わりではありません。卒業後、生徒たちは学生時代から働いてきた企業に正社員として転換し、そのまま就職します。
この「一貫したキャリア形成」には、大きなメリットがあります。まず、すでに3年間働いてきた職場ですから、仕事内容も人間関係も熟知しています。新卒で見知らぬ会社に入る不安がありません。
また、企業側も生徒の能力や人柄を十分に理解しています。互いに深く知り合った上での正社員化ですから、ミスマッチが起こりにくいのです。
さらに重要なのは、SSC企業での経験が継続するということです。高校生のときから培ってきた「社会課題の解決に貢献する」という意識を、そのまま社会人としてのキャリアに活かせます。
ある卒業生は「学生時代から同じ会社で働いてきたから、会社の理念が自分の価値観になっている。この会社で働くことが、自分の人生の目標と一致している」と語っています。これこそが、マイスター教育とSSCの理念が結びついた、理想的な姿です。
地域産業を支えるマイスターの役割:具体的な貢献の形
大工マイスターが創る未来
現在、マイスター高等学院では大工コースに生徒が在籍しています。なぜ大工なのか。それは、建設業が地域社会の基盤を支える、極めて重要な産業だからです。
日本の建設業界は、深刻な人手不足と高齢化に直面しています。熟練した職人の技術を次世代に継承しなければ、地域の住宅建設や公共インフラの維持ができなくなる。これは、まさに喫緊の社会課題です。
マイスター高等学院の大工マイスターたちは、この課題の解決に直接貢献します。彼らが学ぶのは、単なる建築技術ではありません。地域の気候や文化に合った家づくり、環境に配慮した素材選び、災害に強い構造設計など、持続可能な社会を実現するための建設のあり方を、総合的に学んでいます。
ある生徒は「自分が建てた家に、家族が何十年も住み続ける。その責任の重さと同時に、やりがいの大きさを感じる」と話します。一つひとつの仕事が、確実に社会の役に立っている。その実感が、マイスターとしての誇りを育むのです。
将来的な展開:農業をはじめとする多様な分野へ
大工コースは始まりに過ぎません。マイスター高等学院では、農業をはじめとする他の分野についても、来年以降の開校を予定しています。
日本の農業もまた、深刻な担い手不足に悩んでいます。食料自給率の低下は、国家の安全保障にも関わる重大な問題です。農業マイスターの育成は、この課題への直接的な解決策となります。
SSCの理念は、あらゆる産業に適用できます。農業であれば、環境に配慮した有機農法、地域の特産品の開発、6次産業化による付加価値の創出など、社会課題の解決と経済的価値の創出を両立する道は多数あります。
私たちは、将来的に様々な地域産業において、マイスターを育成し、SSC企業と連携していきたいと考えています。それにより、日本全体の地域産業が活性化し、持続可能な社会の実現に貢献できると確信しています。
組織的な支援体制の強み
マイスター高等学院は、個別の学校として孤立しているわけではありません。一般社団法人マイスター育成協会に正会員として参画した各企業が、それぞれ独立した学校を運営しています。
この協会は、継続的に活動しており、2024年12月11日には第二回総会が開催されました。複数の企業が協力し、知見を共有し、より良い教育システムを構築していく。この組織的な基盤が、生徒たちの長期的なキャリアを支えています。
また、協会は就職や転職のあっせんは行いません。なぜなら、生徒たちは入学時から就職先が決まっているからです。この安心感が、生徒たちが学業と実務に集中できる環境を作り出しています。
おわりに:SSCとマイスターが創る未来
SSC(サスティナブル・ソーシャル・カンパニー)とは、21世紀の社会が求める、新しい企業のかたちです。経済的な成長と社会課題の解決を両立し、関わるすべての人々の幸福度を高める。そんな企業が増えることで、持続可能な社会は実現されます。
マイスター高等学院は、このSSC企業で活躍できる人材を育成する教育機関です。技術と人間力を兼ね備えたマイスターたちが、地域産業の担い手として、日本の未来を支えていきます。
私たちが生徒たちに提供するのは、単なる就職先ではありません。社会に貢献し、経済的に安定し、人として成長し続けられる、充実したキャリアです。それを可能にするのが、SSCという理念なのです。
もし、あなたが「社会の役に立つ仕事がしたい」「確かな技術を身につけたい」「安定した将来を築きたい」と考えているなら、マイスター高等学院での学びは、その夢を実現する道となるでしょう。
SSCという新しい企業のかたちと、マイスターという新しい職業人のあり方。この二つが結びつくとき、明るい持続可能な社会への道が開かれます。私たちは、その未来を、生徒たちとともに創っていきます。
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