現場実務者=マイスターとは?求められる「志と人間力」の重要性

はじめに:マイスター高等学院が目指す人材育成の形
マイスター高等学院は、単なる技術訓練校でも、一般的な通信制高校でもありません。私たちの学院が目指すのは、「日本を守る人材育成の場」として、地域産業の担い手を育成し、社会に送り出すことです。
現在、日本では深刻な労働者不足が進行しています。特に大工や製造業、福祉、介護、農業、飲食業といった現場の仕事では、技術を持った人材が不足しており、この傾向は今後さらに加速すると予測されています。
私たちマイスター高等学院が育成を目指すのは、確かな技術力と、社会で求められる「志と人間力」を兼ね備えた「現場実務者=マイスター」です。技術だけでも、人間性だけでも不十分です。両方を兼ね備えてこそ、真のプロフェッショナル、すなわち「マイスター」と呼べる人材になれると私たちは考えています。
本記事では、マイスター高等学院が考える「マイスター」の定義と、なぜ「志と人間力」を重視するのか、その理由と具体的な教育システムについて詳しくご説明します。
マイスターに求められる三つの要素
技術力:現場で活躍できる確かなスキル
マイスターに必要な第一の要素は、特定の現場における確かな技術力です。
当学院では、職業教育を受講しながら高校卒業資格取得を目指すシステムを採用しています。通常の高校では、卒業後に専門学校や職業訓練校に通って技術を学ぶことになりますが、私たちの学院では高校生活の3年間を、将来大きな活躍ができるための実践的な教育に充てることができます。
具体的には、生徒は入学と同時に学院を運営する企業と3年間の有期雇用契約を結び、働きながら技術を学びます。現在は大工コースに生徒が在籍しており、実際の建築現場で経験を積みながら、大工としての専門知識と技術を習得しています。
この実務経験を通じて、教科書や座学だけでは得られない「現場の感覚」を身につけることができます。木材の種類や特性、道具の使い方、季節による作業の違い、お客様との接し方まで、実際の仕事を通じて学ぶことで、卒業時にはすでに即戦力として活躍できるレベルの技術を持つことができるのです。
さらに、有期雇用契約に基づき収入を得ながら技術を習得できるため、経済的な自立を促しつつ、職業人としての専門性を早期に確立できるという大きなメリットがあります。
志:社会に貢献するという使命感
マイスターに求められる「志」とは、単なる仕事への意欲に留まりません。自分の仕事を通じて社会に貢献するという高い使命感を持つことを意味します。
私たちの学院は「地域産業を担い、労働者不足が加速する日本の未来を変える人材の育成」を設立の理念としています。この理念は、マイスターとして活躍することが、日本が直面する社会課題の解決に直接貢献することを意味しています。
例えば、大工という仕事は、人々が安心して暮らせる住まいを提供するという、社会にとって欠かせない役割を担っています。高齢化が進む中で、バリアフリー改修や耐震補強といった需要も増えています。技術を持った大工が不足すれば、人々の暮らしの安全が脅かされることになるのです。
また、当学院の卒業生が進む「未来創造企業」は、本業を通じて継続的な社会問題の解決を事業目的の第一に掲げ、明るい持続可能な社会を構築することを目的としています。つまり、マイスターは、この高い志を持った企業の一員となり、企業の理念を体現する存在として働くことが前提となっているのです。
志を持って働くことは、単に給料を得るために働くのとは大きく異なります。自分の仕事が社会の役に立っているという実感は、仕事へのモチベーションを高め、困難な状況でも諦めずに取り組む力になります。
人間力:信頼を築き、長く活躍するための土台
技術や志があっても、「人間力」がなければ、現場で長期的に活躍し、信頼を築くことはできません。
人間力とは、具体的には以下のような要素を含みます。
- コミュニケーション能力:お客様や同僚、上司と円滑に意思疎通できる力
- 協調性:チームの一員として協力して働ける力
- 責任感:任された仕事を最後までやり遂げる力
- 誠実さ:約束を守り、正直に行動する力
- 向上心:常に学び、成長しようとする姿勢
マイスター高等学院では、この人間力の育成にも力を入れています。授業ではYouTubeの「論語物語」を利用することを推奨しており、これは技術者としてだけでなく、社会人としての倫理観や規範意識を育成するための具体的な取り組みです。
論語は、約2500年前の中国の思想家・孔子の教えをまとめたもので、人としてどう生きるべきかという普遍的な知恵が詰まっています。例えば「己の欲せざる所は人に施すこと勿れ」という教えは、自分がされて嫌なことは人にしてはいけないという、人間関係の基本を示しています。
また、3年間の有期雇用契約の中で、生徒は上司や同僚、お客様といった様々な人々との関わりを通じて、組織内での協調性やコミュニケーション能力を養います。実際の現場では、一人で完結する仕事はほとんどありません。チームで協力し、お客様の要望を正確に理解し、期待に応える仕事をすることが求められます。
人間力は、企業と個人が価値を双方向的に提供し合う「共益」を実現する基盤となります。技術が優れていても、人間関係を築けない人は、長く職場に定着することができません。逆に、人間力があれば、周囲からの信頼を得て、より重要な仕事を任されるようになり、キャリアアップにもつながるのです。
「志と人間力」が生み出す安定したキャリア
未来創造企業という信頼できる就職先
マイスター高等学院の生徒が卒業後に安定したキャリアを築けるのは、「志と人間力」を持った人材を受け入れる企業の質が保証されているからです。
当学院の卒業生を受け入れる企業は、「未来創造企業」に認定されています。この認定は、生徒が安心して働ける会社へ進むための具体的な保証となっています。
未来創造企業として認定されるためには、福利厚生、就業条件、労働環境などの一定基準をクリアする必要があります。例えば、適切な労働時間管理、社会保険の完備、休暇制度の整備、安全な職場環境の確保など、働く人の権利と健康を守るための条件が厳格に定められています。
この認定は、一般社団法人未来創造企業研究所(JFR)が第三者評価の立場から客観的に行います。つまり、企業が自分で「良い会社です」と言っているだけではなく、外部の専門機関が客観的に審査して認めた企業だということです。
これは、ブラック企業と呼ばれるような、労働者を使い捨てにする企業とは正反対の存在です。未来創造企業は、従業員を大切にし、長く働ける環境を整えている企業なのです。
持続可能な経営が生む好循環
「志と人間力」を重視する人材は、企業の理念に共感し、長く定着する傾向があります。
未来創造企業は、様々なステークホルダー(利害関係者)との信頼関係を築きながら、持続可能な経営を行っています。ステークホルダーには、お客様、取引先、従業員、地域社会、そして地球環境まで含まれます。
このような経営を行うことで、従業員の幸福度が高まり、その結果として生産性も向上するという好循環が生まれます。幸せに働いている人は、仕事へのモチベーションが高く、創意工夫をして良い仕事をします。その結果、お客様の満足度も上がり、企業の業績も向上し、さらに従業員の待遇が改善されるという、プラスのスパイラルが生まれるのです。
マイスターは、このような従業員の幸福度が高く、「働きたい企業」としての価値が高い環境でキャリアをスタートさせることができます。これは、人生の大部分を過ごす仕事の場が、苦痛ではなく成長と充実感を得られる場所であることを意味します。
シームレスなキャリア設計
マイスター高等学院の生徒は、卒業後、学院を運営する企業に正社員として転換して就職します。
このシステムの最大のメリットは、学生時代に培った技術と人間性が、そのままプロとしてのキャリアにシームレスに引き継がれることです。
多くの場合、高校や大学を卒業してから就職活動をすると、入社後に改めて企業の文化や仕事のやり方を学び直す必要があります。しかし、当学院の生徒は、すでに3年間その企業で働いているため、企業の理念や仕事の進め方、職場の人間関係も理解しています。
また、企業側も生徒の能力や人柄を十分に理解した上で正社員として迎えることができるため、ミスマッチが起こりにくいという利点があります。「こんなはずじゃなかった」という入社後のギャップで退職してしまうことが少ないのです。
この一貫したキャリア設計は、「志と人間力」が安定した未来を築くための最も重要な資本であることを証明しています。
マイスターが創出する社会的価値
公益と共益の両立
「志と人間力」を持つマイスターは、社会に対して二つの価値を生み出します。
一つ目は「公益」です。公益とは、広く社会全体に対して効果や影響が及ぶ価値のことです。
例えば、大工のマイスターが耐震性の高い住宅を建てることは、そこに住む家族だけでなく、地震が起きた時の地域全体の安全性向上にも貢献します。また、若い世代が大工という職業を継承することで、日本の伝統的な建築技術が次世代に受け継がれ、文化の保存にもつながります。
地域産業の担い手として、労働者不足という社会課題の解決に貢献することも、大きな公益です。私たちの仕事が回らなくなれば、社会全体が困ることになります。マイスターは、社会を支える重要な役割を担っているのです。
二つ目は「共益」です。共益とは、企業と個人が双方向的に価値を提供し合うことで生まれる幸福度のことです。
マイスターが人間力を持って職場で信頼関係を築くことで、働きやすい職場環境が生まれます。お互いに助け合い、尊重し合える関係があれば、仕事のストレスは減り、充実感は増します。これは、給料という経済的価値だけでは測れない、人生の質に直結する重要な価値です。
21世紀型企業の実現を支える
未来創造企業は、「地球」「社会」「地域」「顧客」「取引先」「従業員(家族)」「経営者」という7分野の指標に基づいて評価される、21世紀型の企業です。
これは、従来の企業が利益だけを追求していたのとは異なり、様々な側面からバランスよく社会に貢献する企業のあり方を示しています。
マイスターは、「志と人間力」を通じて、これらの分野において社会課題を生み出さない経営、すなわちSSC(サスティナブル・ソーシャル・カンパニー=持続可能な社会的企業)としての活動を、現場実務者として支えます。
例えば、「地球」の分野では、環境に配慮した工法や材料を選ぶこと。「地域」の分野では、地域の材料を使い、地域の職人と協力すること。「顧客」の分野では、お客様の要望を丁寧に聞き、期待を超える仕事をすること。「従業員」の分野では、後輩を育て、働きやすい職場を作ること。
マイスターは、単なる技術提供者ではなく、企業の理念を体現する存在として、これらすべての分野に貢献するのです。
企業の継続的な成長への貢献
経営者が理念やビジョンに従って経営を行うことで生み出される「社会・経済的価値」には、企業の継続と成長に必要な経済的達成度も含まれます。
「志と人間力」を備えたマイスターは、企業との信頼関係を築き、長く定着します。従業員の定着率が高いことは、企業にとって大きなメリットです。採用や教育にかかるコストが削減され、熟練した技術者が蓄積されることで、仕事の質が向上し、顧客満足度も高まります。
また、幸福度の高い従業員は生産性が高いことが研究でも明らかになっています。やる気を持って働く人は、創意工夫をし、効率的に仕事を進め、より良い成果を生み出します。
このように、マイスターは単なる作業員ではなく、企業の価値創造の担い手なのです。技術だけでなく「志と人間力」を持つことで、企業の持続的な発展に貢献し、自分自身も成長し続けることができるのです。
おわりに:マイスターは未来を築く存在
マイスター高等学院が育成を目指す「現場実務者=マイスター」とは、特定の産業現場における確かな技術を基盤としながら、その技術を最大限に活かし、社会的な信頼を築くための「志と人間力」を統合した人材です。
この「志と人間力」は、単なる精神論や理想論ではありません。具体的なメリットと信頼の根拠に裏打ちされています。
まず、キャリアの安定性です。未来創造企業という高い基準をクリアした、安心して働ける環境での正社員キャリアが保証されています。
次に、実務経験の質です。3年間の有期雇用契約を通じた、収入と経験を両立する実践的な学びが可能です。経済的な負担なく、むしろ収入を得ながら、プロとしての技術を習得できるのです。
そして、社会貢献の実現です。日本の労働者不足という大きな社会課題の解決に貢献し、企業の社会的価値創出を担うという使命感を持って働くことができます。
私たちの教育モデルは、建物に例えることができます。技術が建物の物理的な強度であるならば、「志と人間力」は、その柱が大地に深く根を張るための地盤であり、風雪に耐えうる耐久性です。
この強固な土台があって初めて、その建物、つまりキャリアは、社会という荒波の中で揺るぎなく立ち続けることができるのです。
マイスター高等学院は、一般社団法人マイスター育成協会に正会員として参画した各企業が、それぞれ独立して運営する学校形態をとっています。これにより、各企業の特性に合わせた、より実践的な教育を提供することが可能になっています。
私たちは、これからも「志と人間力」を持った真のプロフェッショナル、マイスターを育成し、日本の未来を支える人材を社会に送り出していきます。技術と人間性の両方を兼ね備えた人材こそが、これからの日本に最も必要とされる存在だと、私たちは確信しています。
お問い合わせは、お電話(078-381-5884)またはメールにて承っております。未来創造企業について詳しく知りたい場合は、一般社団法人未来創造企業研究所(JFR)のウェブサイト(https://jfr.or.jp/about)をご覧ください。
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